文芸誌前夜

文芸誌をはじめて買ったのは「群像」で、2004年10月号だった。
短編小説の特集で、巻頭に載っていたのは絲山秋子
「アーリオ オーリオ」でこの作家に出会い、今でも大好きだ。
次の号は大道珠貴の「傷口にはウオッカ」が巻頭で、
その次が阿部和重の「グランド・フィナーレ」だった。
つまり10月号から連続して群像を購入し、今でもそれは続いているのだが、
とりあえずはそれは関係ない。
文芸誌を買い始めたのが2004年だという話がしたかったのだ。


2001年6月号の「文學界」に文學界新人賞受賞作として掲載された「サイドカーに犬」で長嶋有はデビューしたため、
当時まだ文芸誌を読んだことがなかった私はこのときの状況を知らなかった。


このときに同時受賞だったのが吉村萬壱の「クチュクチュバーン」だった(らしい)。
今、最近文庫版が刊行された長嶋有の第一エッセイ集『いろんな気持ちが本当の気持ち』を読んでいると、
文学界新人賞を受賞したときのことや、芥川賞受賞記念エッセイが収められていて、
その事実を知ったわけだが「ほーぅ」と思う。


山田詠美に「あんたのは二番なんだからね」と言われたということが書いてある(別に嫌味として書いてあるわけではない)。
どちらも受賞ということで順位がつけられているわけではないが(場合によっては佳作という扱いも存在する)、
選考会ではそういう状況だったということだろう。
どちらも読んだことがある人にはわかると思うが、どちらも文学だが、作風は違う。村上春樹村上龍くらい違うのである。


サイドカーに犬」は好きな短編なのだが(前なら大好きなと書いたかもしれないが、最近長嶋有の作品を読み返していて、他の作品も負けず劣らず優れていることを再確認した結果、長嶋作品で特段優れているわけでもないなと、自分の中で相対的に評価を落とした気がする)、
二番目の受賞だということになんだか納得してしまった。
「クチュクチュバーン」は特別好きというわけでもないのだが、
なんとなく、あれと一緒に選考をすると、次点受賞でもおかしくないな、と。


私がはじめて長嶋有の作品を読んだのは『パラレル』の単行本(04年6月刊)で、
吉村萬壱芥川賞受賞作の『ハリガネムシ』の単行本(03年8月刊)だったと思う。
どちらも文芸誌を買う前だ。
どちらも芥川賞受賞作家の作品、芥川賞受賞作、という意識で手に取ったように思う。
あとでさかのぼってそれぞれ文庫でデビュー作の入った『猛スピードで母は』と『クチュクチュバーン』を買うのだが(文庫版は共に05年刊)それは文芸誌を買い始めてから。
読む順番や、起きた事象に対する理解の順番が時系列に沿っていないが、
時間が経って今、こういう風に新たに、経緯や、自分がどう読んだのかについて新たに情報を得、
考えをめぐらせるのは楽しいなあ、というお話なのです。