ストーリーセラー2 感想3 近藤史恵 「レミング」


傑作「サクリファイス」の外伝的作品にして、前日譚にあたる。
この作品に限らず、正統続編である「エデン」にも言えることだが、
もはやこの作品は「サクリファイス」的な自転車レースミステリであることを放棄して、
単純なスポーツドラマ、自転車レースを通して人間模様を描くだけのものになってしまっているように感じる。
そして、わずかながらに含まれるミステリ的要素も、
登場する要素の少なさゆえ、
昨日俎上に上げた伊坂の作品と同様の問題を抱え、
またシリーズ作品であることによって抱えてしまった問題についても同様である。


正直に言って、この作品は単体では評価されるほどのものではない。
しかし「サクリファイス」読者にとってはあの傑作の世界に浸れるまたの機会になるし、
未読の読者にとっては良い案内となるかもしれない(単純なスポーツ小説程度の出来であるこの小説を、本編に手を出そうと思うほど気に入ればという話だが)


しかし逆に280ページ程度の分量にあれだけの要素を詰め込んでいたことが、
間違いなく高い評価の一因になるであろう「サクリファイス」に、
このような外伝を書くことは、蛇足である、という見方ももちろん出来る。
サクリファイス」から「エデン」「レミング」と読み次いだ私はどちらかというとそのような感想を抱いた人間かもしれない。